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3つの失策~大学のセクハラ対応

事の発端は、大学生のA君が授業中、女性の非常勤英語教師のB先生のお尻を触ったということでした。とはいえ、A君の話はすこぶる歯切れが悪いものでした。
「『ノリ』で触ったかもしれないけど、自分の記憶には無いんです。」
「少なくとも、つかんだり、強くたたいた事実はないです。」
「もし、B先生が怒っているのであれば、記憶は無いけど謝りたい。」

一方、B先生は大変なおかんむり。翌日他の講師に、翌々日には事務職員に対し、A君を自分の授業に出席させないように求めましたが、講師たちは「A君だって授業料を支払っているんだから、出席させないことはできません」と、にべもありません。
B先生は弁護士さんに相談し、事件の1週間後には弁護士さんから大学に文書による申し入れがありました。その骨子は、①A君に謝罪文を書かせて、B先生に渡してほしい、②慰謝料等の金銭賠償をしてほしい、③今後、この件はB先生ではなく弁護士に話をしてほしい、といったものでした。
ところが、大学側は直接B先生と面談し、弁護士のいないところで次のように言いました。
「B先生、Aはお尻を触った記憶がなく、まして先生を傷つけるつもりはなかったって言ってるんですよ。でも先生を不快にしたことについては、謝りたいって言ってます。ほら、Aは前期、先生から「優」をいただいていましたよね。先生の授業をとても楽しみにしているんですよ。Aも先生の授業に引き続き出席したがっていますし、ご勘弁いただけませんかね。」
B先生は、弁護士に話をしてほしいと伝えていたはずなのに、直接許してやってもらえないかと言われたことに、さらにショックを受けました。その後、弁護士さんから「弁護士を通せと言ったのに、直接本人に許せと求めるのは大問題」とクレームが入りました。
ところが、その1週間後、大学は一転して「セクハラは無かった」と結論付けて幕引きを図りました。B先生は大学に改善の見込みなしと判断して退職してしまいました。

裁判所は、A君の弁解は「不可解」で信用できないとしつつ、性的加害というよりは、いわば「ノリ」でやってしまったことで違法性はそれほど強くないと判断し、慰謝料10万円の支払いを命じました。一方、大学側に対しては、対応が不十分でB先生を精神的に相当傷つけたと言わざるを得ないとして、慰謝料80万円の支払いを命じました(千葉地方裁判所松戸支部平成28年11月29日判決。一部変更してあります)。

A君が明確に認めていなかった点は、大学が対応に苦慮した原因だと思われます。しかし、振り返ってみると、別の対応をしておけば…という思いも否定できません。まずは初期対応。暫定的であっても速やかにA君を別の英語クラスに移すなどの対応が望まれました。実は、大学は事後的にそうしたのですが「時すでに遅し」でした。
次に弁護士さんを選任したのに、直接B先生に許してもらおうと説得を試みてしまったこと。B先生とすれば、自分だけでは不安があるから弁護士を依頼したのに、大学がそれを無視したかたちになり、B先生の不安をいっそう増幅させてしまったものと思われます。
最後に、きちんとしたかたちでB先生の話を聴かずに、「セクハラは無かった」と結論づけてしまったこと。教室なのに他の学生は気づかなかったようで、事実認定は容易でないケースだったと思いますが、だからこそ双方の意見を十分に聴いて、丁寧に進める必要がありました。
事態を甘く見た初期対応。「話せばわかる」の丸め込み作戦。そして強引な幕引きと、失策続きのセクハラ対応でしたが、他山の石としたいものですね。