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【新型コロナ】イベント中止。契約関係はどうなる?

イベントが中止された!

「商品展示会を企画していましたが、緊急事態宣言があったので、中止しました。でも、会場管理者からは、会場使用料を全額請求されています。支払わなければならないでしょうか?」

「このあいだ大好きな〇〇のコンサートのチケットを買ったんだけど、緊急事態宣言だからってコンサートが中止になっちゃった。でも、チケット代ってどうなるの?」

こんな疑問を持っている方も多いと思います。

2020年4月7日の政府の緊急事態宣言を受けて、様々なイベント(ライブ、演劇公演、音楽会、展覧会、展示会等)が開催中止となっています。こうした場合、イベントを取り巻く様々な契約関係はどうなるのでしょうか。

ここでは、劇場における演劇の公演を例にとり、『2020年5月1日に予定されていた公演を、東京都の開催停止要請のあった4月11日に中止した』という場合を考えてみましょう。

演劇の公演では、公演主催者が、劇場管理者、観客、出演予定者、広告業者などの関係者と、各種の契約を結んでいることになります。これら契約関係、特に、支払いの関係がどのようになるのか、それぞれ考えてみます。

なお、契約書に今般のような場合の取扱いを定めているなど、当事者間に明確な合意があればそれに従います。ここでは、当事者間に明確な合意がないことを前提とします。

(1)会場使用料について

(2)チケット代金について

(3)出演者の出演料について

(4)広告料等について

(5)早めの対応が重要

 

(1)会場使用料について

まず、開催中止になった劇場の会場使用料について考えてみましょう。

公演主催者と劇場管理者の間には、施設の使用契約が成立しています。これにより、劇場管理者は、公演主催者に対し、「劇場を使用させる義務」を負い、公演主催者は、劇場管理者に対し、「劇場使用料の支払義務」を負っていると考えられます。

この点、東京都では、緊急事態措置により、劇場は、施設の使用停止及び催物の開催の停止要請の対象施設となっています。

あくまで「要請」ですので、劇場管理者は劇場を使用させようと思えば使用させられるため、劇場を使用しないのは公演主催者の自己判断だ、と評価する余地もあるでしょう。

しかし、パチンコ業者が営業を継続したために、店舗名と住所を公表されて、一段と強い休業要請がなされている例(朝日新聞5月10日朝刊・東京版)を見ても明らかなとおり、この社会状況では、緊急事態措置の取られている期間中は、劇場はもはや使用不能の状態となっていると考えることも十分可能ではないかと思われます。

そのように考えた場合、劇場管理者は、「劇場を使用させる義務」を、常識的に考えて(=社会通念上)、果たそうとしても果たせない状態(=履行不能)になっていると考えられます。

このように、劇場管理者の義務が、自分の責任でない原因により履行不能になってしまったと考える場合、公演主催者は、依然として、使用料の支払義務を負うのでしょうか。

この点、契約上の義務は、相手が義務を果たしてくれるから自分も義務を果たす、という対価的な関係にあるわけですから、当事者に責任がない理由で一方の義務がなくなれば、他方の義務もなくなると考えるのが公平ですね。そこで、民法は、このような場合には、他方の義務は果たさなくてよいと定めています(民法536条1項)[1]

したがって、この例で、緊急事態措置の期間中の劇場は使用不能の状態だと考えれば、公演主催者は劇場使用料を支払わなくてよい、と考えられます。

(2)チケット代金について

次は、チケット代金です。

公演主催者はチケットを販売する契約により、「公演を行う義務」を負い、観客は「チケット代金を支払う義務」を負っています。

前述のとおり、この社会状況では、緊急事態措置の取られている期間中は、公演はもはや開催不能の状態となっていると考えることも十分可能ではないかと思われます。

そのように考えた場合、公演主催者は、「公演を行う義務」を、常識的に考えて(=社会通念上)、果たそうとしても果たせない状態(=履行不能)になっていると考えられます。

そうしますと、やはり(1)で説明した民法の考え方が当てはまります。契約上の義務は、相手が義務を果たしてくれるから自分も義務を果たす、という対価的な関係にあるわけですから、当事者に責任がない理由で一方の義務が履行不能となれば、他方の義務も果たさなくてよいという考え方です(民法536条1項)。

このように、緊急事態措置の期間中の公演は開催不能と考えれば、観客はチケット代金を支払わなくてよい、と考えられます。

なお、チケット代金は先払いしていることが多いと思いますが、その場合は、契約を解除して、代金の払戻しを受けられることになると思われます[2]

(3)出演者の出演料について

出演者予定者の出演料はどうなるのでしょうか。

公演主催者と出演予定者との間には、出演に関する契約が成立しており、出演予定者は「出演する義務」を負い、公演主催者は「出演料の支払義務」を負っていると考えられます。

そして、公演が開催不能の状況にあると考えた場合、出演予定者にとっては、出演の機会自体がなくなってしまったわけですから、「出演する義務」は、常識的に考えて(=社会通念上)、果たそうとしても果たせない状態(=履行不能)になっているといえます。

とすれば、やはり(1)会場使用料や(2)チケット代金の場合と同じ考え方が当てはまります(民法536条1項)。

したがって、緊急事態措置の期間中の公演は開催不能と考えれば、公演主催者は出演料を支払わなくてよい、と考えられます。

(4)広告料等について

最後に、広告料等について考えてみます。

たとえば、公演主催者が、広告業者などに、チラシを作成する業務やホームページの作成業務を発注することがあると思います。ここでは、チラシを作成する業務を発注した場合を考えてみましょう。

この両者の間には、チラシの作成に関する請負契約が成立しており、広告業者は「チラシ作成義務」を負い、公演主催者は「代金支払義務」を負っていると考えられます。

この点、緊急事態措置期間中の公演は開催不能の状態だと考えるとしても、それは公演そのものの話であって、その宣伝媒体であるチラシの作成は、依然として可能です。したがって、広告業者は、請負契約に基づき、チラシを作成する義務を引き続き負っています。

そうである以上、広告業者が約束を守ってチラシを完成させた場合には、公演主催者は代金支払義務を負っていると言わざるを得ません。公演が中止になって不要となったからと言って、完成したチラシの受取りや代金の支払いを拒むことはできないと考えられるのです。

ただし、広告業者が仕事を完成しない間は、公演主催者は、必要な損害を賠償して請負契約を解除することができます(民法642条)。

ここで、「仕事を完成しない間」というのは、本稿の例では「納品前」ではなく、「チラシの完成前」をいいます。また、チラシの作成にも段階がありますので、デザインが完成していれば、その部分についてはもはや解除できず、残る印刷作業の部分のみ解除できるという考え方もできると思います。

また、必要な損害賠償というのは、仕事が完成すれば得られたであろう報酬(費用を含めた請負総額ではありません)、解除時までに生じた費用、解除によって生じた追加費用を足し合わせた金額と解されています[3]

(5)早めの対応が重要

ここでは、緊急事態措置期間中の公演が中止された場合の法律関係について考えました。

しかし、緊急事態措置解除後も引き続き警戒が求められるであろうことを見越して、6月以降のイベントがすでに中止されているケースもあると思います。また、これから中止しようと検討している事業者もいらっしゃるかと思います。そのような場合には、必ずしも上記(1)から(4)のような結論が当てはまるとは限りません。

そのような場合も含め、現実の問題は多種多様ですので、紛争が生じた場合はもちろん、紛争の未然防止のためには、早め早めに弁護士に相談することをお勧めします。

 

  • この原稿は、2020年5月15日現在の情報をもとにしており、それ以降の情報は反映しておりません。
  • この原稿に関してくれたけ法律事務所又はその所属する弁護士が法律上の責任を負うことはありませんので、ご留意ください。

 

[1] 2017年の民法改正により、民法536条1項も改正されていますが、本稿の結論に関しては大きな違いはありません。なお、2020年4月1日より前に締結された契約には旧法が適用されます(改正法附則30条1項)。

[2] 実は「もはや支払う必要がない」ということと、「支払ったものを返してもらえる」ということは法律上の位置付けが異なります。前者は、支払わずに放置しておけばよいのですが、後者のためには、契約を解除する必要があります。しかし、改正前の民法543条では、履行不能となった原因が債務者の側になければ契約を解除できないとしており、本稿のような場合には解除できないという結論になりかねません。未払いならもはや支払う必要がないのに、先払いしていれば、解除できず、払戻しを受けられないという不公平な状況となってしまうのです。このような問題意識から、改正後の民法543条では、債務者の側に原因がなくとも契約解除ができるとされました。そのような改正の経緯も踏まえますと、2020年4月1日より前に締結された契約で、改正前の民法が適用される場合でも、観客は契約解除ができ、払戻しを受けられると解釈できるのではないかと考えています。

[3] 中田裕康『契約法』(有斐閣、2017年)517頁。