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試験観察と少年の更生

少年のやったことは、確かにひどいことでした。年下の男の子を捕まえて何度も殴りつけ、その場で2千円を脅し取ったうえ、さらに「もっとカネを持ってこい」と命じて、合計1万4千円も奪いました。
 生活も乱れていました。せっかく入った高校は、暴力事件を起こして事実上退学に。サラ金でお金を借りてバイクを買い、暴走族と一緒に暴走行為をしていました。逮捕後、一応反省を口にしていたものの、暴行の一部を認めないなど、改悛にも疑問が残りました。
 しかし、生い立ちを調査してみると、中学までは明るくて積極的で、問題行動も全くなく、リーダー的な存在として一目置かれていたことがわかりました。親子関係の問題もうかがわれません。心理診断によれば、まだ感情をコントロールする能力が十分育っていないものの、基本的な資質や能力は決して低くないこともわかりました。
 少年は19歳。「大人と同じ責任を負わせるべき」という見方もあるでしょうが、裁判官は熟慮の上、「この少年の立ち直りに賭けてみよう」と考え、少年を試験観察に付しました。試験観察とは、家庭裁判所調査官の監督の下、守るべき事項を定めて社会生活を送らせ、その状況も考慮して最終的な処分を決めるというものです。
 少年を担当する調査官は、少年を住み込みで雇ってくれる塗装店を見つけ、そこに少年を委託しました。暑い盛りの塗装業はつらいものだったと思われますが、少年は早朝から夕方まで、親方の指導に従いながらしっかり働きました。元々能力が高かったことも幸いし、塗装の腕前も向上しました。そうすると、自信が出てきますので、ますます明るくて前向きになり、3か月後には、親も見違えるほどたくましくなりました。
 少年の顕著な変化を踏まえ、裁判官は少年を保護観察処分としました。保護観察は、一定期間保護司さんの監督を受けるものの、そのまま塗装店で働きながら社会生活を送ることができる処分です。少年法によって非行少年が更生した好事例と言えるでしょう。

 現在、少年法の適用年齢の引き下げが議論されています。現在の少年法は20歳未満に適用されますが、2022年4月から民法が18歳を成人とすることから、少年法も18歳未満までとすべきではないか。そういう観点です。
 ただ、18歳、19歳に少年法が適用されなくなると、これらの若者の犯罪の相当数は起訴猶予となって、何の対処もされないまま社会に戻ると指摘されています。このケースの裁判官のような働きかけも難しくなるでしょう。

 ところで、裁判官は審判書に、「更生に向けての少年の真剣な努力に心からの拍手を送りたい」と書きました。こういった記載は珍しく、よほどうれしかったのでしょうね😅(実際の審判例に基づいていますが、少年事件ですので裁判所名等の記載は差し控えます)。