お知らせ

シャッターとトラックの接触事故~悩ましい過失相殺

「次は、セントラルビルに入っている平和食堂さんだったな。」
Aさんは配送会社の従業員。土曜日の朝から相棒のBさんを助手席に乗せて、トラックで食材の配達をしています。
「ええと、ここを曲がってと・・・。セントラルビルは、土日は搬入口のシャッターが閉まってるから、インターホンで管理人に連絡して開けてもらわなきゃいけないんだ。面倒だよな・・・。あれ、開いてる!」
見ると、ちょうど搬入口からバンが出てきたのでした。
「こいつはラッキー。バンが出ていったら、シャッターが開いているうちに入っちゃおう。」
通りからハンドルを切って、搬入口前の歩道を横切ろうとしたところ、ブザーの音が鳴り響きました。
Bさん「なんか鳴ってるよ。」
Aさん「バンが出てきたから歩行者向けに警告してるんだろ。よし、入ろう!」
実は、シャッターが自動で閉まり始めており、ブザーはその警報音だったのですが、二人とも気づきません。障害物検知システムが働いてシャッターは下降を停止したものの、すでにある程度下がっていたため、あーあ、シャッターの先端がAさんのトラックの天井部分に接触。ガガガガッという音がして、Aさんもやっと事態に気づきました。

シャッターとの接触事故でトラックの方は屋根が傷ついた程度で済みましたが、シャッター側はというと、スラット部分が曲がってしまっただけでなく、巻取機も壊れてしまいました。
セントラルビルは配送会社に対し、①シャッターの修理費用約100万円に加え、②修理完了までの44日間の警備費用約300万円を請求。ちなみに、警備費用は、シャッターが閉まらなくなってしまったので、防犯上24時間警備員を張り付けなければならなくなった、その費用でした。
配送会社は猛反発。「いきなりシャッターが閉まり出すなんて、予想できませんよ。いや確かにブザーは聞こえましたよ。でも、車庫から車両が出てくるとき、ビービーって鳴るところって、よくあるじゃないですか。あれかと思ったんですよ。例えば『シャッターが閉まります』とか、はっきりアナウンスしてくれればわかったのに。事故はビル会社の責任です。」

裁判所は、第一に、シャッターが自動で閉まる際、赤色回転灯も回っていたのですが、入庫しようとするドライバーからは見えない位置だったこと、第二に、ブザーも設置されていたものの、ビービー鳴るだけでは何のことかわからないこと、第三に、障害物検知システムは設置していましたが、車両がシャッターに近づく時点で一時停止させるなどの措置をとっていなかったため、車両がそれなりのスピードで入ってくると検知しても間に合わないことなどから、ビル側にも落ち度があったと認めました。
もっとも、Aさんが道路から左折して歩道を渡り、シャッターのところに達するまで約6秒あったと認定し、注意していればその間にシャッターが閉まりつつあることがわかったはずだとも認定しました。そして、ビル会社の過失割合を3割、Aさん、つまり配送業者の過失割合を7割と判示しました(東京地方裁判所令和元年11月28日判決。事案を単純化し、やりとりなど若干脚色しています)。
生じてしまった損害をどのように分担させれば公平か。過失相殺はそんな場面で活躍する仕組みですが、どういう過失割合が公平かは事案によって異なるため、裁判例などを参考にしながら頭をひねるほかないのが実情です。