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せっかく養子にしてやったのに~養子縁組の離縁
養子縁組といいますと、身寄りの無い幼子を養子にして育てるというイメージをお持ちの方も多いと思いますが、実際にはそういったタイプに限らず、大人が大人を養子にするということもあります。
Aさんは、御年80歳余の女性。子どももおらず、長く独り身だったところ、たまたま親族の法事で知り合ったBさん(48歳)が、とても優しい男性に思えて、養子になってもらえないかと考えました。自分の老後の世話をしてもらうことと、先祖伝来の墓を守ってもらうことを期待していたのでした。一方、Aさんは都内に複数の不動産をもつ資産家でもありましたから、それらを相続できることを考えると、養子の側にもメリットがあるように思われました。養子縁組を持ちかけられたBさんは熟考の上、承諾することにします。こうして、ある春の日、ふたりは養親・養子の関係になりました。
ところが、その後まもなく、ふたりの間にすれ違いが生じます。Aさんは、Bさんがそれまでの家を引き払い、同居してくれることを希望します。Bさんも同居そのものにはやぶさかでなかったのですが、Bさんは仕事柄、たくさんの書籍を持っており、その置き場所をめぐってAさんと揉めてしまいます。結局、Bさんは同居を断念し、別にマンションを購入してしまい、Aさんは裏切られたという感情を抱くことになります。
その後、Aさんが主宰する法事の会食で、Bさんは、デザートも出て相当時間が経過していることから「お開き」を宣言したのですが、親族との話に花が咲いていたAさんは「まだお話ししている最中なのに」と憤りました。
Aさんの物忘れや加齢が原因となる諍(いさか)いもありました。AさんはBさんが大切なハンドバッグを持ち去ったなどと主張して非難しましたが、実はハンドバッグはAさんの自宅にあったことが判明します。しかし、AさんはBさんに謝ることもしませんでした。
こうして、最初の頃は銀座で仲よく食事もしていたふたりでしたが、事実上の絶縁状態になってしまったのでした。
養子縁組から3年半ほど経過した頃、Aさんは家庭裁判所に離縁の調停を申し立てました。ここでBさん側は「解決金として3000万円を払ってもらえれば、離縁に応じる」と回答。かえって話がこじれ、離縁訴訟となりました。
裁判で離縁するためには「(養子)縁組を継続しがたい重大な事由」が必要です。裁判所は、AさんとBさんは、判決までの約4年余にわたり、一度も同居したことが無く、今では絶縁状態になっているので、離縁の理由があると認めました。また、養親子関係が破綻しているとしても、その原因をつくった側からの離縁請求は認められないというルールがあるのですが(消極的破綻主義)、これについて裁判所は、確かにAさんにもある程度の非はあるが、Bさんにも責任はあると述べて、そのルールは適用せず、離縁を認めました。
養子縁組においては、結婚と異なり、同居義務がありません(※ちなみに、結婚については夫婦の同居義務が定められています。民法752条)。そうすると、同居していないから養親子関係が破綻しているとは言いにくそうです。しかし、Bさんも「3000万円と引き換えに」とは言うものの、離縁に応じる姿勢を見せていたことから、裁判所としては養親子関係が破綻していたと認定して差し支えないと考えたのでしょう。
Bさんとしては、何だか振り回された感じもいたしますが、実際にはAさんの面倒をほとんど見ていないのに、養子として多額な遺産だけ相続するというのも若干収まりが悪い気もいたしますので、事案の解決としては妥当だったかもしれませんね。
※東京地方裁判所平成16年8月23日判決の事案をもとに、若干脚色してあります。